誰かの好きを食べている vol.6 -ミスサイゴン渋谷-

オアシスという言葉を思い浮かべる。

砂漠を踏み締める足音に、揺れる視界。

シュリーレン現象という名のモヤの奥深くには緑色の点の重なりが見える。
助かった…と安心すると同時に、残りの力を振り絞り目指す場所。

オアシスとはそんな所ではないかと想像する。

本物のオアシスを目にしたことはないが、オアシスのような場所に出会すことは誰しもあるはず。

この前、夏の渋谷で出会ったミスサイゴンは
まさにそんな場所だった。

何かの用があり渋谷に出かける必要が発生した昼時。

ここに来る頻度は決して少なくないが、
だいたい仕事終わりやどこかに行った帰りの夕暮れ時がほとんどで、
夏の昼間の姿なんて知らないし、ランチの情報も押さえてはいない。

隣には腹を空かすと機嫌を悪くするミトさんもいる…

どこか、どこかへ急がなければ…
Google mapにピンを立てていないかと慌てて探すと
唯一立っていたのはベトナムの国旗。

だいぶ前に行ってみたいなと印だけつけていたミスサイゴンだ。
どうやら30分後にはオープンするらしい。

足早にシブチカを抜け、雑居ビルの6階を目指す。

オープンの時間から5分後。店員さんが少し遅れてやってくる。

ごめんね〜と柔らかい笑顔に気を緩める。
お腹が空いてきた。

メニューはフォーと迷ったがブンチャー(Bun Cha)にした。

ベトナムはハノイの名物で、
甘だれが絡んだ麺に揚げ豚や揚げ春巻き、
シャキシャキの野菜が載っていて混ぜて食べる混ぜ麺的なものらしい。

涼しい店内でお店のあれやこれやに目をやりながら、
会話をしていることしばし。

お目当てのブンチャーがやって来た！

う、旨い。
甘めのタレと具材たちをしっかり混ぜて食べるのも良し、
机上にあるナンプラーを少し垂らして味変してもステキだ。

語彙力は「おいしい」の4文字だけになってしまい、
箸の上下運動に集中しているとあっという間に空の皿。

元気が出てきた。
今日も渋谷の人混みをなんとか耐え凌げる。(気がする。)

暑くて溶けるどころか蒸発してしまいそうな日本の夏。
どうしても外出しなければならないそんな日は、オアシスを探し求めよう。

渋谷にはミスサイゴンがある。