映画「シャイニング」を初めて見た時、
恐怖と戦慄を覚えたのと同時に幾許かの憧れを抱いていた。
人里離れた山の麓にゆったりと構えられたホテル。
サーモンピンクやミントグリーンの壁紙が映える部屋に、品良く仕立てられた絨毯。
こんなホテルに泊まってみたいなとたびたび思ったものだ。
(もちろんホラー要素がなければだが…)
映画や小説に触れていると美しいホテルに出会うことがよくあるし、
その度に入ってみたいと思うのはきっと私一人ではないはず。
ホテルとはそんなフィクションの世界を限りなく現実に近づけてくれる、まさに夢の世界なんだと思う。
先日連れて行っていただいた「ザ・プリンス箱根芦ノ湖」には、
そんなフィクションのような世界があった。
「ザ・プリンス箱根芦ノ湖」は名前のとおり芦ノ湖の畔に位置しており、
村野藤吾の設計により1978年に施工された。
雄大な自然の中に佇む重厚感あるモダンな外観は、地球に着陸してひっそりと隠れる宇宙船のようにも見える。
とにかく大きいのに、不思議と景観に馴染んでいるのだ。
そして、この宇宙船は高度経済成長の遺産として残った過去のものでは決してなく、
数十年経った今もなお気品と活気を含みながら脈を打っている。
エントランスをくぐり抜けた先にある大きな教会のように
天井の高いロビーには立派な格子柄の絨毯が広がり、
その絨毯を挟んで規則正しくラウンジチェアとローテーブルが並ぶ。
直線と曲線が交錯する空間は細部まで美しく、
物理的な面からもデザイン的な面からも老朽化を感じられない。
きっと長年愛されるよう設計され、
人の手でその状態が保たれてきたのだろう。
私が憧れを抱いていたフィクションの世界だ!と終始、心はダンスしている。
きっとこれから先も何度も思い出すだろうし、
歳を重ねながら何回も見たい景色があるホテルだった。
ホテルとは非日常であり、
そこで過ごした1日は高濃度な思い出として生涯残り続けることがしばしある。
そしてそんな忘れらない思い出は、アルバムに写真を綴じるように大切に心に仕舞われて、ふと日常に優しい気持ちを降り注いでくれたりする。
「ザ・プリンス箱根芦ノ湖」は私にとってそんな場所。
<建築の情報>
ザ・プリンス箱根芦ノ湖
設計:村野藤吾
公式サイト:https://www.princehotels.co.jp/the_prince_hakone/